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【初心者向け】法定雇用率とは?概要・計算方法・罰則までわかりやすく解説

法定雇用率とは? アイキャッチ画像

「法定雇用率ってそもそも何?」「法定雇用率を守れてないと罰金って本当?」などなど法定雇用率はニュースなどでも取り上げられているが、まだまだ認知度が低いといえます。

この記事では、初心者でもわかるように、法定雇用率の意味や仕組み、企業が達成するメリット・罰則まで、わかりやすく説明していきます。また「500名にとった法定雇用率の認知度アンケート」の結果も興味深いものになりました。

目次

法定雇用率とは?

まずは法定雇用率とは何かを理解していきましょう。

法定雇用率の定義

法定雇用率とは、企業が雇わなければならない障害者の割合を示す制度です。障害のある方が安定して働き続けられる社会を作るため、法律で定められています。

日本で障害者雇用が法律として義務化されたのは、1960年(昭和35年)に制定された「身体障害者雇用促進法」が始まりです。この法律により、国や地方公共団体、民間企業に対して、身体障害者を雇用する努力義務が課されました。

その後、1976年(昭和51年)には努力義務から法定雇用率制度として義務化され、企業規模に応じて一定割合以上の障害者を雇用しなければならない仕組みが導入されました。

さらに、1997年(平成9年)には知的障害者も雇用義務の対象となり、2018年(平成30年)からは精神障害者も法定雇用率に算定されるようになっています。

このように、障害者雇用の対象は時代とともに広がり、現在では「身体障害」「知的障害」「精神障害」のある方すべてが企業の雇用義務対象となっています。逆を言えば、それだけ障害者の数が増えているとも言えますし、国が障害者雇用の課題に向き合いっているとも言えます。

  • 身体障害者数はこの25年間で約80万人増(356→436万人)
  • 知的障害者数約3倍に増加(36→109万人)
  • 精神障害者数約2倍に増加(219→419万人)

障害者の状況(内閣府)

障害者雇用促進法に基づく制度

法定雇用率は、「障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)」に基づいています。この法律では、一定規模以上の企業に対して、従業員のうち一定割合以上を障害者として雇用することを義務付けています。

現在では、従業員が43.5人以上いる企業には、この法定雇用率の達成義務が生じます。要は43.5人以上いる会社は障害者雇用をする義務が発生しているといえます。

障害者雇用とは何か?対象となる方は?

障害者雇用とは、障害がある方がその能力を発揮しながら、他の従業員と同じように働くことを意味します。仕事内容や働き方を工夫することで、企業にとっても新たな戦力となり、社会全体の活性化にもつながります。

障害者雇用の対象となるのは、障害者手帳を持っている方で以下のような方が対象になります。

  • 身体障害者手帳を持つ方
  • 療育手帳(知的障害者手帳)を持つ方
  • 精神障害者保健福祉手帳を持つ方

発達障害や難病がある方であっても、これらの手帳を取得していない場合は障害者雇用枠での雇用対象とはなりません。逆に、手帳を持っている場合には、障害の程度や内容に関わらず対象となります。

法定雇用率って誰が決めているのか?

法定雇用率は、厚生労働省が法律に基づいて決定しています。国の方針として、障害者が働きやすい社会を作るため、経済状況や障害者人口の変化に応じて見直されることもあります。最近では2~3年に一度、法定雇用率が見直されることが多くなっています。

法定雇用率の計算方法

法定雇用率とは? 法定雇用率の計算方法

実際に自社が法定雇用率を満たしているかどうかは、どのように計算するのでしょうか。ここでは計算の基本を解説します。

対象従業員数の考え方

法定雇用率を計算する際の「従業員数」は、正社員だけでなく、一定条件を満たすパートや契約社員も含めて計算します。ただし、短時間労働者(週20時間以上30時間未満)は0.5人としてカウントするなど、雇用形態によって計算上の人数が異なるため注意が必要です。

  • 週30時間以上勤務者は1人換算
  • 週20時間以上30時間未満勤務者は0.5人換算

基本的には上記で計算ができます。

例えば、

  • 週30時間以上:50名
  • 週20時間以上30時間未満:5名

計算をすると、
50+(5×0.5)×2.5%=1.3125

法定雇用率計算では繰り上げになるために2名の方を障害者雇用枠で採用する必要があります。

障害者雇用数のカウント方法|わかりやすく解説

障害者雇用率を計算する際、単純に「人数」で計算するわけではありません。雇用形態や障害の程度によってカウント方法が変わるため、注意が必要です。ここでは、カウント方法を簡単にまとめました。

1. 週30時間以上働く場合

1人をそのまま1人としてカウントします。

例)週30時間以上勤務する障害者の方が1名 → 1人分カウント

2. 週20時間以上30時間未満で働く場合

0.5人としてカウントします。

例)週25時間勤務する障害者の方が1名 → 0.5人分カウント

3. 重度身体障害者・重度知的障害者の場合

週30時間以上勤務する場合→ 1人を2人としてカウントできます。

例)重度身体障害者(週30時間以上勤務)が1名 → 2人分カウント

4. 重度障害者が短時間勤務(週20時間以上30時間未満)の場合

0.5人を1人としてカウントします。

例)重度知的障害者(週25時間勤務)が1名 → 1人分カウント

まとめると

  • 精神障害者の場合は、重度障害者のように2倍カウントはできません。
  • 重度障害者とは、身体障害者手帳1級・2級、知的障害判定で重度と判断された方が対象です。
  • カウント方法を正しく理解することで、正確に法定雇用率を達成できるか判断できます。
勤務時間重度かどうかカウント人数
週30時間以上通常1人
週30時間以上重度2人
週20~30時間未満通常0.5人
週20~30時間未満重度1人

ちょっと難しいカウントの仕方ではありますが、ここのカウントによって必要な障害者雇用者数がわかってくるので注意は必要です。

現在の法定雇用率(最新値・2025年以降)

2025年4月からの法定雇用率は、民間企業の場合2.5%となっています。例えば、従業員が100人いる場合、2.5人以上の障害者を雇用する必要があります(計算結果は切り上げ)。

なお、法定雇用率は2026年度に2.7%と段階的に引き上げられる予定であり、企業にはさらなる対応が求められます。

法定雇用率について(厚生労働省)

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法定雇用率の推移

過去から現在までの変遷

法定雇用率は、社会や経済の変化、障害者の就業状況に合わせて、段階的に引き上げられてきました。以下に、民間企業における法定雇用率の推移をまとめます。

  • 1976年:1.5%(法定雇用率制度スタート)
  • 1998年:1.6%
  • 2006年:1.8%
  • 2013年:2.0%
  • 2018年:2.2%(精神障害者を算定対象に追加)
  • 2021年:2.3%
  • 2023年:2.3%(2021年と変化なし)
  • 2024年:2.5%
  • 2026年:2.7%(予定)

推移をみると引き上げられる期間がどんどん短くなっていることがわかります。それぐらい障害者雇用は社会的な問題になっているといえるんです。

法定雇用率の推移について(厚生労働省)

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なぜ引き上げられてきたのか?背景と目的

法定雇用率が引き上げられてきた背景には、いくつかの重要な目的があります。

  • 障害者の就労機会を広げるため
    障害がある方の多くは、働く意欲や能力がありながら、就職の機会に恵まれない現状があります。法定雇用率を引き上げることで、企業に障害者雇用を促し、働く場を増やす狙いがあります。
  • ノーマライゼーションの推進
    障害の有無にかかわらず、誰もが共に暮らし、働ける社会(ノーマライゼーション)を実現するために、法律で雇用義務を強化しています。
  • 高齢化社会への対応
    少子高齢化が進む中で、労働力不足を補う意味でも、障害者雇用は重要視されています。

このように、法定雇用率の引き上げは、単なる数字上の調整ではなく、障害のある方が当たり前に働ける社会を作るための大切な取り組みといえます。

法定雇用率が必要な理由

障害者雇用促進の目的

法定雇用率が設けられている一番の目的は、障害のある方が社会の一員として活躍できる環境を整えることにあります。障害があるからといって働く機会が与えられない社会では、多様性や公平性が失われてしまいます。

また、障害のある方が安定して働くことができれば、経済的な自立が可能になり、生活の安定だけでなく、自己実現や社会参加にもつながります。企業にとっても、障害者雇用を進めることで、新たな視点や気づきを得られることが多く、組織の多様性が向上します。

SDGsや企業価値向上との関連

近年では、法定雇用率の達成はSDGs(持続可能な開発目標)との関連でも注目されています。特にSDGsの「目標8:働きがいも経済成長も」や「目標10:人や国の不平等をなくそう」は、障害者雇用の推進と深く結びついています。

また、障害者雇用に取り組むことは、企業の社会的責任(CSR)を果たすことにもなり、社会的信用の向上や企業ブランドの強化につながります。株主や取引先、消費者からの信頼を得る上でも、障害者雇用への取り組みは重要な経営課題の一つといえるでしょう。

このように、法定雇用率を達成することは、単に法律を守るというだけでなく、企業が社会に貢献し、持続的に成長していくための大切な取り組みなのです。

【500人に聞いた】法定雇用率の認知度アンケート結果

法定雇用率ナビでは「法定雇用率の認知度アンケート」を500人に取りました。

アンケート結果

「法定雇用率という言葉を知っていますか?」という質問に対しては、以下のような結果となりました。

回答人数割合
知っている84人16.8%
知ってはいるが意味はわからない166人33.2%
知らない(初めて聞いた)250人50.0%

このように、法定雇用率という言葉を知っている人は約17%にとどまり、半数の方は「初めて聞いた」と回答しています。ニュースなどで報道されている割にはまだ言葉とは浸透していないという結果になりました。

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法定雇用率達成のために企業がやるべきこと

法定雇用率を達成するということは、「障害者の方を雇う」=「障害者の方ができる作業(仕事)を切り出す」必要性があります。ここのハードルが高く採用まで至らないケースが多いのが現状です。

仕事を切り出すことが第一歩

障害者雇用を進めるうえで、最初に取り組むべきことは「仕事の切り出し」です。仕事の切り出しとは、業務全体を見直し、障害のある方でも取り組みやすい業務を明確化することを指します。

例えば、以下のような業務は切り出しの対象になりやすい仕事です。

  • 書類のファイリングやスキャン作業
  • 社内の清掃や備品管理
  • データ入力やチェック業務
  • 郵便物の仕分けや配送補助

こうした業務は、障害の有無にかかわらず一定の品質が求められる仕事ですが、マニュアル化しやすく、短時間勤務にも適しているため、障害者雇用の第一歩として取り入れやすい特徴があります。

また、仕事を切り出すことで、社員全体の業務効率化にもつながります。今まで担当者が行っていた業務の一部を障害のある方にお願いすることで、担当者はより専門的で高度な業務に集中できるようになるでしょう。

「どんな業務を任せられるか」ではなく、「業務をどのように切り出すか」という視点で考えることが、障害者雇用成功への第一歩です。

採用活動で気をつけること

法定雇用率を達成するためには、まず採用活動を見直すことが重要です。障害者採用を行う際には、以下のポイントに注意しましょう。

  • 募集要項に障害者雇用枠を明記する
  • 仕事内容や勤務時間、勤務地などを具体的に提示する
  • 応募者の特性に合わせて選考方法を工夫する
  • 面接時に配慮が必要なことを確認する

採用活動を行うときに最も大切なのは、「できないこと」ではなく「できること」に着目することです。障害があっても、業務内容を工夫することで、十分に力を発揮できる方が多くいます。

中には、1つの作業に集中できると一般的な社員よりも早いスピードで処理ができるケースもあります。

雇用後の職場環境整備

採用して終わりではなく、雇用後の職場環境整備も非常に重要です。むしろ、雇用後の方が大変といっても過言ではありません。

以下のような取り組みを行うことで、障害のある方が安心して長く働ける環境を作ることができます。

  • バリアフリー化(段差解消、手すり設置など)
  • 通勤や休憩時の動線を配慮する
  • 業務マニュアルの作成や視覚的支援ツールの導入
  • メンタルヘルスサポートや定期面談の実施

また、周囲の理解を深めるために、障害者雇用に関する研修を実施することも大切です。経営陣や現社員への理解もハードルが高いといわれています。

外部機関や助成金の活用

障害者雇用を進めるにあたっては、外部機関の支援や助成金制度を上手に活用することがポイントです。ここでは代表的な支援内容を紹介します。

ハローワークの支援

ハローワークでは、障害者専任の就職支援ナビゲーターやジョブコーチが配置されており、企業と障害者双方のマッチングをサポートしています。求人票の作成から面接設定、雇用後のフォローまで一貫して支援を受けることができるため、積極的に活用しましょう。

特例子会社制度

障害者雇用を進める方法の一つに特例子会社制度があります。特例子会社とは、障害者雇用の促進を目的として設立される子会社で、親会社と合わせて法定雇用率を算定できる仕組みです。

この制度を活用することで、専門的な配慮が必要な業務を特例子会社に集約し、障害者が働きやすい環境を整えながら、親会社全体で法定雇用率を達成することが可能になります。

特例子会社を設立するには一定の要件を満たす必要がありますが、厚生労働省や都道府県労働局の支援を受けながら準備を進めることができます。

2024年の時点で特例子会社は約550社あり、約10万人の障害をもった方が働いています。上場企業など大手企業が取り組むケースがほとんどです。

コンサルに任せるのも1つの手法

障害者雇用を進める際に、「何から始めればいいかわからない」という企業担当者の声は少なくありません。そんなときには、障害者雇用専門のコンサルティング会社にサポートを依頼するのも有効な手法です。

コンサルティング会社では、以下のような支援を受けることができます。

  • 業務切り出しのアドバイス
  • 募集・採用活動のサポート
  • 定着支援プログラムの提案
  • 特例子会社設立に向けた計画支援
  • 法定雇用率達成に向けた中長期計画の策定

専門家の知見を活用することで、法定雇用率達成までの最短ルートが明確になり、社内負担を軽減しながら、質の高い障害者雇用を実現できます。

特に、初めて障害者雇用を行う企業や、過去に採用・定着でうまくいかなかった経験がある企業にとって、コンサルタントの存在は心強いパートナーになるでしょう。

障害者雇用に強いコンサルをまとめてありますので参考にしてください。

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法定雇用率を達成できないとどうなる?

法定雇用率とは? 未達成の場合の罰則

法定雇用率が達成できないとどんな罰則があるのかみていきましょう。

罰則・納付金制度

法定雇用率を達成できない場合、企業には障害者雇用納付金制度が適用されます。これは、障害者を法定雇用率に満たない分だけ雇用していない企業に対して、納付金を支払う義務が課される制度です。

具体的には、常用労働者数100人以上の企業が対象で、不足している1人あたり月額5万円(年間60万円)の納付金が発生します。例えば、2人不足している場合は年間120万円の負担となります。

なお、納付金は罰金ではなく制度運営のための負担金ですが、企業経営にとっては大きなコストとなるため、注意が必要です。

障害者雇用納付金性制度の概要

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社会的信用への影響

法定雇用率を達成できていない企業は、納付金だけでなく社会的信用の低下という影響も受けます。障害者雇用の取り組みは、企業の社会的責任(CSR)やSDGsへの貢献として注目される時代です。

もし法定雇用率を長期にわたって達成していない場合、行政指導を受けることもあります。さらに、厚生労働省の公表対象となり、企業名が公開されることでイメージダウンにつながる恐れもあります。

一方で、法定雇用率をしっかり達成している企業は、障害者雇用優良企業として評価され、採用活動や取引面でもプラスに働くことが多いです。

今の時点では達成できていない企業が注目されることはありませんが、今後法定雇用率の提示が法律で決まった場合は、イメージダウンにつながる可能性が大きくなっていくと予想されます。

法定雇用率の業種別達成状況

達成している企業と達成していない企業の割合は?

厚生労働省の発表によると、2023年の民間企業における法定雇用率達成企業の割合は以下の通りです。

  • 達成企業の割合:48.3%
  • 未達成企業の割合:51.7%

つまり、約半数の企業は法定雇用率を達成していますが、残り半数以上の企業が未達成という現状があります。これは、企業規模や業種、地域によっても差があり、特に中小企業では達成が難しいという声も多く聞かれます。

一方で、障害者雇用を積極的に進めている企業では、採用ノウハウの蓄積や職場環境整備が進み、離職率低下や業務効率化につながっている事例も増えています。

今後は、未達成企業がどのように取り組みを強化し、法定雇用率を達成していくかが重要な課題と言えるでしょう。

達成率が高い業種

法定雇用率の達成率が高い業種としては、以下のような業種が挙げられます。

  • 製造業
    比較的業務が分業化されており、障害者が取り組みやすい作業工程を切り出しやすいため、達成率が高い傾向にあります。
  • 運輸業・郵便業
    仕分け作業や清掃、事務補助など、障害者雇用の受け皿となる業務が多いことから、法定雇用率を達成している企業が多く見られます。
  • 医療・福祉
    福祉施設や病院などでは、障害者雇用に対する理解が進んでいるため、全体的に達成率が高めです。

やはり単純作業などの業務切り分けが比較的簡単な業種と医療福祉など障害者の方と接点がある業種は達成しやすいと言われています。

達成率が低い業種

一方で、法定雇用率の達成率が低い業種としては、以下のような業種があります。

  • 情報通信業
    システム開発やプログラミングなど専門性の高い業務が多く、仕事の切り出しが難しいことから、障害者雇用が進みにくい状況にあります。
  • サービス業(その他)
    小規模事業者が多く、人的リソースの不足や受け入れ体制が整っていないことが課題となっています。
  • 金融業・保険業
    セキュリティや個人情報保護の観点から業務切り出しが難しく、達成率が低めの傾向です。

単純作業が多くないもの、接客など外部との接点が多い業種は現時点では難しいと考えられています。

このように、業種によって障害者雇用の状況には大きな差がありますが、どの業種でも仕事の切り出しや職場環境の工夫次第で、法定雇用率達成は可能です。

障害者雇用のメリットとデメリット

法定雇用率とは? 障害者雇用のメリットデメリット

障害者雇用には、企業にとってさまざまなメリットがありますが、一方で課題やデメリットも存在します。ここでは、両面をわかりやすく解説していきます。

障害者雇用のメリット

  • 企業の社会的評価やイメージ向上
    障害者雇用を積極的に行うことで、CSR(企業の社会的責任)やSDGsへの取り組みとして評価され、企業ブランド価値が高まります。
  • 多様性のある職場づくり
    障害のある方と共に働くことで、社員一人ひとりの相互理解や助け合いの意識が芽生え、職場全体のコミュニケーション活性化にもつながります。
  • 業務効率化につながる
    業務を切り出して担当してもらうことで、他の社員が本来業務に集中でき、結果として生産性向上につながるケースも多いです。
  • 助成金などの制度活用が可能
    障害者雇用に取り組むことで、雇用助成金や職場環境整備費などの支援を受けることができます。

障害者雇用のデメリット

  • 受け入れ体制の整備が必要
    バリアフリー化や業務マニュアルの作成、周囲社員への研修など、雇用前後の環境整備にコストと時間がかかります。
  • 業務切り出しに工夫が必要
    障害特性に合わせた業務の切り出しがうまくいかないと、本人も企業もストレスを感じやすくなります。
  • 定着までに時間がかかる場合がある
    仕事内容や職場環境、人間関係への慣れなど、定着するまでに一定のフォローが必要です。

大手企業ではないが障害者雇用の義務が発生している中小企業は、「採用や教育が難しいから罰則を選ぶ」という会社も少なくありません。メリットとデメリットという観点から話をすべきではないのですが、それだけ障害者雇用は現場にも負担がかかっています。

まずは「どんな業務なら任せられるか」ではなく、「業務をどう切り出すか」という視点で検討することが大切です。

特例子会社って?設立するメリットは?

法定雇用率とは? 特例子会社とは?

特例子会社とは?

特例子会社とは、障害者雇用を促進するために設立される、親会社が100%出資する子会社のことを指します。厚生労働大臣の認可を受けることで、特例子会社で雇用されている障害者を、親会社の雇用人数に合算してカウントすることができます。

例えば、親会社単独では法定雇用率を満たせない場合でも、特例子会社で障害者を雇用することで、グループ全体として法定雇用率を達成することが可能です。

特例子会社は、主に以下のような業務を担当するケースが多く見られます。

  • 社内メール便や郵便物の仕分け
  • 清掃や美化業務
  • データ入力やスキャン業務
  • 農業(障害者農園運営)など

ここでは、実際に特例子会社を設立している大手企業を5社ご紹介します。どのような業務を行っているかも合わせて参考にしてください。

大手企業の特例子会社

特例子会社では清掃や事務補助、データ入力など、障害のある方が働きやすい業務を切り出して任せることで、企業全体で法定雇用率を達成しています。また、特例子会社の設立は障害者雇用促進だけでなく、企業価値向上やSDGs達成への貢献にもつながります。

特例子会社設立のメリット

特例子会社を設立することで、企業にはさまざまなメリットがあります。

  • 法定雇用率をグループ全体で達成しやすくなる
    親会社単独での達成が難しい場合でも、特例子会社で雇用することで全体の達成率を引き上げることができます。
  • 障害者が働きやすい環境を集中整備できる
    特例子会社では障害者雇用を前提とした環境設計ができるため、定着率の向上や働きやすさにつながります。
  • 企業の社会的評価やブランド価値が向上する
    特例子会社の設立は、障害者雇用に積極的な企業として社会的評価を高め、SDGsやCSRの観点からもプラスに働きます。
  • 助成金の活用が可能
    設立時には一定の助成金を活用できる場合があり、初期コストを抑えることができます。

このように、特例子会社の設立は法定雇用率達成だけでなく、障害者が安心して活躍できる環境づくりと企業価値向上の両立につながる取り組みです。

特例子会社について(厚生労働省)

よくある質問(FAQ)

法定雇用率とは? よくある質問

Q1. 法定雇用率の達成義務は何人以上から?

法定雇用率の達成義務は常用労働者43.5人以上の企業から発生します。つまり、従業員数44人以上の企業には障害者を雇用する義務があります。

Q2. アルバイト・パートも対象?

はい、週20時間以上働くアルバイト・パートも法定雇用率の計算対象になります。ただし、週20時間以上30時間未満の場合は0.5人としてカウントされます。

Q3. 精神障害者はカウントできる?

はい、2018年4月から精神障害者保健福祉手帳を持っている方も法定雇用率の算定対象となりました。

Q4. 特例子会社を作るには?

特例子会社を作るには、障害者雇用促進法に基づく厚生労働大臣の認可が必要です。雇用管理体制や事業内容、障害者の職域開発計画など、一定の要件を満たす必要があります。

Q5. 法定雇用率未達成の場合いつから納付金がかかる?

常用労働者数100人超の企業で法定雇用率を下回る場合、不足人数1人あたり月額5万円(一年間で60万円)の納付金が課されます。未達成の状態が確認された時点で対象となります。

Q6. 重度障害者はどのようにカウントされる?

重度身体障害者や重度知的障害者は1人を2人としてカウントできます。短時間勤務(週20~30時間未満)の場合は1人としてカウントされます。

Q7. 法定雇用率の現状は?はいつ見直される?

現在は、2.5%となっています。法定雇用率はおおむね5年に1度見直されます。次回は2026年度に引き上げ予定です。

Q8. 障害者手帳を持っていないと対象外?

はい、障害者雇用としてカウントするには身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳のいずれかを持っている必要があります。

Q9. 短時間勤務の場合はどう計算する?

週20時間以上30時間未満の短時間勤務者は0.5人としてカウントされます。30時間以上であれば1人として算定されます。

Q10. 雇用率の計算で除外できる従業員はいる?

はい、雇用率計算では高齢者継続雇用者など一定条件の従業員を除外できます。除外率は業種によって異なりますので、最新の厚生労働省資料を確認しましょう。

Q11. 障害者雇用納付金は経費計上できる?

はい、納付金は損金算入可能です。法人税法上、必要経費として計上できます。

Q12. 法定雇用率を超えて雇用すると助成金はある?

はい、特定求職者雇用開発助成金(障害者初回雇用コース)など、法定雇用率を超えて雇用する場合に活用できる助成金があります。

Q13. 障害者雇用の求人はどこで出せる?

ハローワークで無料求人を出せるほか、障害者雇用専門の転職サイトや民間紹介会社も利用できます。

Q14. 障害者雇用の面接で配慮すべきことは?

面接では、障害特性による制限や配慮事項を確認することが大切です。また、面接会場のバリアフリー環境も整えておきましょう。

Q15. 企業名公表の条件は?

法定雇用率未達成で行政指導にも従わない場合、厚生労働省が企業名を公表することがあります。これは企業イメージに大きく影響するため注意が必要です。

法定雇用率達成の成功事例

法定雇用率とは? 障害者雇用の成功事例

大手企業の取り組み事例

ここでは、法定雇用率を達成している大手企業の具体的な取り組み事例を紹介します。

トヨタ自動車株式会社では、特例子会社である「トヨタループス株式会社」を設立し、障害のある方が働きやすい環境を整備しています。清掃や緑化、文書管理業務を中心に、障害特性に合わせた業務分担や作業手順書の作成などを徹底することで、定着率向上と法定雇用率の達成を実現しています。

みずほフィナンシャルグループでは、「みずほビジネスチャレンジド株式会社」を設立。印刷やメール便、データ入力など、銀行業務を支える事務サポート業務を特例子会社で集約し、障害者雇用を推進しています。また、親会社との定期面談やキャリア支援面談を通じて、働きがいのある職場づくりに力を入れています。

上場企業や大手企業の場合は法定雇用率を達成している企業が多いといえます。企業イメージにも繋がりますし、採用時の企業の信用度にもつながるため達成を目指して採用を行っている大企業は多くいます。

中小企業の取り組み事例

一方で、中小企業でも法定雇用率を達成している事例が増えています。

例えば、ある製造業の中小企業では、従来社員が行っていた備品管理や工場内清掃を障害者雇用枠で切り出しました。
仕事内容を細分化し、視覚的な手順書やカラー表示を導入することで、障害のある方でもスムーズに業務を進められるよう工夫しています。

また、サービス業の企業では、障害者就労支援A型事業所と連携し、事務作業や清掃業務の一部を業務委託する形で雇用率を達成。直接雇用が難しい場合でも、外部連携で法定雇用率をクリアする仕組みを構築しています。

このように、大手企業だけでなく中小企業でも、「業務の切り出し」や「外部連携」を工夫することで、無理なく法定雇用率を達成している事例が数多くあります。

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法定雇用率と今後の展望

2030年までに求められること

現在、法定雇用率は段階的に引き上げられていますが、2030年までにさらなる引き上げが求められる可能性が高いと予想されています。少子高齢化による労働力不足や、SDGsの「誰一人取り残さない」という理念の実現に向け、障害者雇用はますます重要視されるでしょう。

そのため企業には、単に雇用率を達成するだけでなく、障害者が活躍できる職場づくりやキャリア形成支援が求められるようになります。具体的には、以下のような取り組みが必要です。

  • 業務切り出しのさらなる工夫
  • ICT・AIを活用した業務マッチング
  • 職域拡大とジョブローテーションの推進
  • メンタルヘルスケア体制の強化

2030年に向けて、障害者雇用は企業の義務から戦略的取り組みへと変化していくでしょう。またどこかのタイミングで法定雇用率の提示義務化する可能性も十分に考えられます。その場合は、未達成の企業が目立ってしまう可能性があるので今のうちからある程度の対策を考えておくと良いでしょう。

障害者雇用の未来

障害者雇用の未来は、企業にとっても社会にとっても大きな可能性を秘めています。

テレワークの普及により、在宅で活躍できる障害者の雇用も広がっています。また、AIやRPAなどの技術進化により、障害特性に合わせた業務自動化や支援ツールが増え、より多様な働き方が実現可能になるでしょう。

さらに、企業が障害者雇用に積極的に取り組むことで、ダイバーシティ経営の実現企業ブランド価値の向上にもつながります。

今後は、障害者雇用が「社会的責任」だけではなく、企業の成長戦略の一つとして位置付けられる時代が到来すると考えられています。

まとめ|法定雇用率は企業の社会的責任

今回は、法定雇用率の基本から計算方法、達成するための具体的な取り組み、そして今後の展望までを解説しました。

現在の法定雇用率は2.5%、従業員が1000人いる企業は25名を雇用し続けなければいけないという法律があります。しかしながら半数の企業は罰金を払っているのが現状です。更に2026年に2.7%になると想定されています。

法定雇用率の達成は、単なる義務ではなく企業の社会的責任(CSR)です。障害のある方が自分らしく働ける環境を整えることは、多様性を尊重する企業文化を育み、組織全体の活性化にもつながります。

また、障害者雇用に取り組むことで、企業価値向上やSDGs達成への貢献、さらには優秀な人材確保にもつながるでしょう。

まずは、「どんな業務を任せられるか」ではなく「業務をどう切り出すか」という視点で、自社にできることから始めてみてください。法定雇用率を達成し、誰もが安心して働ける企業を目指していきましょう。

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この記事を書いた人

法定雇用率ナビの編集部です。福祉業界員は5年以上在籍しており、企業の障害者雇用や障害者の方々のリアルな就職状況など目の当たりにしてきました。わかりやすい言葉で様々な角度からの情報をお届けできたらと思います。

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